会場に詰めかけた、たくさんの人々。私はなぜか、その会場に立っていた。そこは、個人宅の広めの部屋を借りた、衛星中継会場だった。
講演開始までは、まだ時間がある。会場にいるのは、主婦や会社員、子供連れからお年寄りまで、実に様々だ。皆、決して特殊な感じはなく、普通の人々である。
「今日はたくさんの方がいらしてくれて、とっても嬉しいですね!」
ふと、近くにいた女性が話しかけてきた。この人は、私と同じ青年部で、この講演会の準備をしてきた仲間だ。毎日夜遅くまで一緒にボランティアをして、この日に備えてきたのだ。他の仲間はあと数人しかおらず、少ない人数で、音響機器の準備や、チラシの作成と印刷と配布、会場のイス並べ、などなどを一緒にこなしたのだ。
クタクタになりながらも、頑張ってきたのは、当日多くの人が会場に足を運ぶのを見たいからだった。
そんな想いが叶って嬉しそうな彼女の顔はとてもキラキラしていて、私は何も言えなかった。
「あぁ、なんて純粋な目をしているんだろう。私はこんな純粋な人達が好きだ。けれども、残念ながら、本当に残念ながら、君は騙されていたんだ。」
そう思って、口を開こうと思ったけれども、彼女にそんな絶望させるようなことを言えるはずもなく、ただ「よかったね」と言ってニッコリと作り笑いをするしかなかった。
総裁先生には妻がいたが、離婚した。そのとき、総裁は妻が100%悪い、ということにして教団から追放した。君はこの行動についてどう思うだろうか?
私は男性だから、わかることがある。それは、少なくとも若い頃だけであったとしても、または一瞬でも妻を愛したことがあって、自分から結婚した男であれば、その後うまくいかなくなって離婚した相手を公開の場で罵倒なんてしない。
しかし総裁は、離婚後に公開で出版した書籍の中で、「相手が結婚してほしいと無理やり押しかけてきたから、仕方なく結婚してあげた」と言ったのだ。宗教家として、というよりも、男として本当に最低だと思わないか?
僕たちはそんな責任感や主体性のカケラも持ち合わせていない小さな男のために、大切な大切な青春の時間を使ってしまったのだよ。そう言いたかったけど、なぜか言えなかった。
次の瞬間、場面が急変した。
私は幸福の科学を辞めてだいぶ時間が経っているはずなのに、どうして総裁の講演会に来ているんだろう?
そう思っていると、次に別の女の子が話しかけてきた。
「オパールさん、お久しぶりです!」
あぁ、この子も支部で一緒に活動した子だ。家族全員が会員で、幸福の科学的価値観の中で生まれ育った高校生だ。友達を含め、人間関係の全てが幸福の科学の会員になっている。
「見てください、私、声優になる夢が叶ったんです!」
見ると、幸福の科学の新作アニメ映画の脇役の声優として、選ばれたらしい。
彼女は以前から声優になるのが夢で、ボイストレーニングをしている、という話を聞いていた。
以前、一度、彼女から相談を受けたことがあった。それは、付き合っていた彼氏にジュエリーショップに連れて行かれ、懇願されて高い宝石をローンで買うことになってしまった、という話だった。彼女は好きな彼氏にノーと言えず、相談してきたのだった。
私はすぐにそれがいわゆるデート商法であることを指摘して、その彼氏が詐欺師であると伝えた。その事件は、消費者相談センターなどの協力で、事なきを得たが、信じていた彼氏に裏切られたことはかなりショックだったようだ。
人を信じることは大切なのかもしれないが、疑うことも必要なのだ。でも彼女は事件が終わってから今日に至るまで、総裁を疑ったことは無いと思う。
講演会の会場で、声優に決まって嬉しそうな彼女に対し、私は「総裁先生はテレビに映っていない時、幹部職員に罵倒の言葉をいつも浴びせているんだよ。それは最近の話ではなく、君が生まれる前、幸福の科学が発足する前からそうだったんだよ。」と言いたかった。
しかし総裁を否定することは幸福の科学的価値観を否定することであり、ひいては両親、家族、友人、将来の夢を含めた彼女の人生の全てを否定することになってしまう。そんなことになるくらいなら、真実を知らないまま生きていくのが幸せなのだろうか。
まぁ、そう言ってみたところで彼女は信仰を守ろうとするから、私の言うことなど信じないかもしれない。
そう思うと、私はただ「夢が叶ってよかったね」と作り笑いをしてニッコリするしかなかった。
そこで、私は目が覚めた。
夢か・・・。
彼女たちは今頃どうしているだろうか。一緒に活動する中で、共に笑い、夢を語り合った「法友」たち。私は法友を失ったが、真実を知らないまま人生を終えるよりはずっと良かったと思う。
私の青春は幻だった。全てが、夢だったのだ。
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